オーディオアンプにおけるアクティブなフィードバック回路の歴史 | 中川 伸 |
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イコライザー回路を図1のような方法で原音比較をすると、NFB回路にある電解コンデンサーがネックになります。とにかく音が鈍くなるのです。そこで鈍くならないような回路の研究を1974年頃にやってみました。改善する良い方法は、大きな値の電解コンデンサーではなく、図2のように小さな値のフィルムコンデンサーを使い、なおかつ直流ゲインを抑えることで動作点を安定化させるというものです。そのため、FETのソースフォロアを使いました。これは1975年5月号のラジオ技術にSRA-10Sの回路として発表しました。たぶん、オーディオ回路では世界初のアクティブなフィードバック回路の筈です。
スタックス時代だった1975年の夏に、私はアメリカにあるマークレビンソンの会社に伺い、その時にSRA-10Sのこの回路の特徴について話をしました。するとマークレビンソン氏は、自分のアンプはこの部分の電解コンデンサーは良質なタンタルを使っていると言っていました。そういえば私はタンタルを使ったことは無かったのですが、さすがにマークレビンソン氏はアンプの音を悪くするネックのことはよく知っていたといえます。
1977年になるとソニーからSRA-10Sと同じ回路を使ったTA-F7Bというプリメインアンプが発売されました。やはり1977年に、アメリカのGAS(Great American Sound)社からボンジョルノ氏が設計したThaedraというコントロールアンプにもサーボループコントロールという名前で似た動作の製品が発売されました。また、1977年頃にオンキョー(ONKYO)からもスーパーサーボという名前で似た動作のアンプが発売されました。実はGASとオンキョーの回路は、私としては直結したくなるような微小信号部分にフィルムコンデンサーを使うので、諦めた回路でした。1979年にはラックスからも、詳細は覚えてはいませんがL-58Aでデュオ・ベーター・サーキットとしてアクティブなフィードバック回路を使ったアンプが発売されました。
今の知識でなら、SRA-10Sの回路や、類似回路も十分に特許になりますが、当時の知識ではこれらは特許にはなると思いませんでしたので、出願もしませんでした。もしも特許にしていたとしても、それで大きく儲かるということはなかったでしょう。
フィデリックスのLZ-12(1978年発売の旧製品)ではドリフトを少なくする回路にきちっとすることで、このコンデンサーをショートし、なくしてしまいました。ですからアクティブなサーボ回路もなくしてしまい、シンプルになった分だけより原音に近づいたという訳です。なお、現在では安定動作のための、アクティブな負帰還回路は広く使われるようになってきているようです。また、意図的に古い回路のように電解コンデンサーを使い、鈍い音にしていると思えるようなアンプもあります。最近の高級アンプのなかには悪条件でも音が神経質にならないような音作りをする傾向が、まま見受けられます。フィデリックス製品は原音忠実がポリシーなのでCERENATEも音りづくりは避け、できるだけ純粋なものに努めています。